スタッカート

下に咲いている草花を踏まないように注意しながら、木々の間を歩く。

瑞々しい色の葉と葉の間から零れ落ちる木漏れ日を背中に受け、歩みを進めた。



やがて、大きなビニールハウスが遠くに見えてきて。

私は目を細め、少しだけ歩調を速めて、そこへと向かった。







「いやあ、そろそろあいつへの意地悪もここらへんにしていいかなって、思うんだよね」

そんな、よくわからない言葉を軽い笑いと共に言ったハチさんは、きょとんとしている私に向かって、二枚のルーズリーフを渡してきた。

目を落とすと、歌詞らしき言葉の上に、AだとかCだとか書かれていて。

視線を上げると、顔の前で掌を合わせたハチさん。

「お願い!俺、これから一寸用事があるからさ、代わりに、トキにコレを届けて欲しいんだ」

―今度のライブでやる曲だから、急ぎでさ―

眉をハチの字に下げて、そう、言われて。


…じゃあ、さっき部室に居た時に渡せたのでは…


そう思ったけれど、断る理由など無かった私は、こくりと頷いたのだった。
< 158 / 404 >

この作品をシェア

pagetop