モラルハラスメントー 愛が生んだ悲劇
歪んだ自己愛
元気になった倉澤は、これまでのことを妻に感謝することなどなく、何事もなかったかのように仕事に打ち込む生活に戻った。

会社の売り上げは面白いように伸び、毎晩のように、社員らを連れて飲み歩くようになった。

裕子に一切連絡を入れず、家に帰らない日が増えていった。

夫のあまりの変貌に、裕子は戸惑いは隠しきれなかった。

二人きりになった時の夫の様子が、とにかくおかしいのだ。

まず、妻に話し掛けられることを嫌がり、必要最低限の言葉しか交わさなくなった。

会社に行ってる間、妻が

「今晩のおかず、リクエストある?」

と以前なら食いしん坊の直哉が喜んだメールを送れば、

『帰るかどうかもわからないので自由にしていてくださって結構です。
仕事中のメールは大変迷惑なので、遠慮していただけませんか。』

などと、妙に仰々しく、冷たい敬語の返信が返ってくるようになった。

裕子は夫に口出しをできずにいた。

もし、前のようになってしまったら・・・と考えると、怖かったのだ。


しかし日に日に夫の態度は耐え難いものになっていく。

寝室も別々にすると言い出し、何故なのかと問うと、

『僕は自分を精神病扱いするような女と同じベットで寝なければならないのでしょうか?』

との答えがあった。

そして、
『会社に入って、色々と勝手なことをされたようで、こちらは大変迷惑しております。

ご自分の能力に過剰な自信がおありのようですが、今後一切、こちらの業務に関わるようなことはしないでください。』



のどかな小春日和だった。

ちょうど、二人が結婚してから一年経ったある日、


道端で発狂している裕子が警察に保護された。





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