やわらかな檻
七夕
 襖を開けると、畳の上に色が散っていた。

 光景としてはかるたや百人一首のちらしに近いが、まるで強盗に荒らされたようだ、とあえて表現したい。

 整った鼻梁に切れ長の一重、肘まで伸びた黒髪はうなじで一つに纏められ。

 中性的な容貌を持つ美しい強盗が、文机の前に座っていたからだ。


「慧」


 怒気を含んだ声で名前を呼べば、慧はゆうるりと顔を上げ視線で畳を示す。

 薄い桃色や黄色、水色と畳に散らばった短冊は無秩序で、かつ一つの共通点を持っていた。

 二十枚程度の全ての短冊に、黒々とした墨で今年の願い事が書かれている。
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