かさぶたと絆創膏
*問わず語りの夜*

side雪


とりあえず残る涙はマンションに着くまでにぬぐい取ったけど、赤くなったまぶたと鼻の先は治まらなかった。


……どうせお兄ちゃんは鈍いから気付かないだろう。


そう高をくくってインターフォンのボタンを押した。


……しかし。


「…………出ない」


待てど暮らせど玄関が開く気配は無い。

さっき行きがけに送ったメールに返信も無い。


……まさか寝てる?


眠るには早い時間だけど、お兄ちゃんならやりかねない。


フライパンから火があがって前髪まで燃やして、髪型変えちゃったくらいだし。


急いでお兄ちゃんの携帯に発信するけど、耳には規則的な呼び出し音ばかりが聞こえてくるだけ。



「バカ兄……」


仕方なく玄関の前にカバンを下ろし、膝を抱えてしゃがみ込んだ。



……もしかしたら、わたしが来ることを忘れてるのかもしれない。



「はぁ……」


十分あり得る悲しい可能性に、溜め息を付いて膝に顔を埋めた。


……このまま連絡が取れなかったらどうしよう。


星が煌めく夜空と春の夜風にあてられて、気持ちはどんどん鬱いでしまう。


閉じたまぶたの裏に、大好きな彼の笑顔がよぎった。
< 12 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop