お前じゃない
被害者 2
「久美子さん、社長は心臓か何か持病があったの?」


「ううん。社長は健康体そのものだったわ」


 ハルが質問すると、久美子は震える声で答えた。

 健康体の人が急死するなんて、何かショック性の強い飲食を口にしただろうか? あの症状は即効性の毒物か何かの可能性が高いんじゃないか……。

 ハルは難しい顔をしていた。


「とにかく、このままじゃ社長が気の毒だ。部屋に運ぼう」


 二宮の冷静な言葉で、男達は社長を部屋に運んだ。

 社長の遺体にシーツをかけ、ゆっくりと扉を閉めた。

 その後、一同はロビーに腰掛けると、落ち着かないのか、坂上がタバコに火を点けながら誰にともなく訊いた。


「今晩どうする? 社長があんな事になっちまったし」


「とにかく、明日の朝、明るくなってから決めよう。今晩は各自部屋に戻ってもいいし、飲み直すのもいいだろう。風呂は、唯一の女性である久美子さんが、先に入って下さい」


 二宮が適切に言うと、久美子は黙って頷き、部屋から着替えを持って浴室に向かった。社長の愛人だったとしたら悲しみも深いのだろう。
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