隣の先輩
第1章 出会い
 まだ冬の名残を残す春の風が傍を抜けていく。私はそんな寒さをしのぐためにパステルカラーの青色のスプリングコートの裾を寄せた。


 立ち止まっているわけにも行かず、目的地に急ごうとした。


 その足もすぐに止まる。連なる家々の合間を縫い、タクシーの中から確かに見たはずの、記憶の中にあるお店の看板を姿を探していた。


 だが、私の求める店は見当違いの場所にあるのか、綺麗に影になってしまっているのか視界に映らなかった。私は眉をひそめ、わずかに茶を帯びた髪の毛をかきあげる。


「弱ったな」


 苦笑いを浮かべると、辺りを見渡すことにした。


 私は母親に頼まれ、夕食の材料を買いに行くことになったのだ。気軽にその頼みを聞き入れたが、家を出て三十分が経過しても未だ、その目的地に到着することができないでいた。


 家族から鈍いだの、とろいと言われることは頻繁にあったが、いくら私でも住み慣れた街で迷子になることはない。
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