僕らのままで
じれったい──Side 波流
*Side 波流*

「涼クン!!」

 私は、びっくりして叫んでいた。


 いきなり立ち上がった彼。何をするのかと思ったら、ジャブジャブ音を立てながら、湖の中へと足を進めていく。

「涼クン、待って!危ないよ!!」

 私は、必死に彼を呼んだ。立ち上がろうとしたけれど、湖畔の石が手足に当たって、すごく痛い。

「大丈夫。待ってて」
 涼クンは、はにかんだ笑顔をチラッと見せた。


 ──何しようとしてるの?

 私は、恐々と彼を見つめた。

 決して暖かくはない水温。むしろ、目が醒めるくらい冷たい。そんな中に、涼クンは膝まで浸かって、更に沖へと行こうとしている。

「待ってて。とってくるから」
 彼は、俯きがちにそう言うと、完全に私に背を向けてしまった。


 チャプ…チャプン…

 彼が足を進める度に、水が軽やかな音を立てる。


 彼の周りで、水の珠が散っては遊ぶ。


 ───『とってくるから』って…まさか、あのアクセサリーを?

 
 痛みを我慢して小石を払って、私は何とか腰を上げた。でも、もう遅かった。
彼はもう手が届かないほど沖に出てしまっていた。


 私に出来ることといったら、叫ぶことだけ。

「りょーくーん!!」

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