フェイクハント
二・捜査
 典子は警察署に着くと、海人に案内されながら、薄暗い廊下を歩いていた。しんと静まり返る廊下には、典子のヒールの音と、海人の靴音が空しく響き、まるで闇の中に飲み込まれたような感覚に陥った典子は、今にも気を失いそうだった。


「大丈夫? なわけないよな……」


 心配そうに横顔を見つめる海人に、典子は何も答えられず、単調に歩みを進めた。

 そしてギギギッと嫌な音を立てながら海人は霊安室の扉を開くと、中に入るよう典子の肩にそっと手を置いた。

 視線の先に静夫の遺体は横たわり、顔には白い布が被せられていた。典子は小走りに駆け寄ると、ゆっくり白い布をめくった。そこには紛れもなく静夫の顔が現れ、目は閉じてはいるものの、顔色は、死んでいることを知らせるのに十分なほど、土気色をしていた。

 無言で静夫の遺体にしがみつき、典子はぽろぽろと涙をこぼした。

 海人は典子にかける言葉も見つけられず、ただその後姿に視線を合わせ、立ち尽くしていた。
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