私立秀麗華美学園
7章:フロランタンが食べたい
「フロランタンが、食べたい」


その日は雨が降っていた。

学園祭が終わり、片付けがあって、しばらくして期末テストがあった。笠井進もこの間のことで懲りたのか、無駄な勝負を挑んでくることはなかった。その結果成績はどうだったのかとか、その辺は気にするな。気にするなったら気にするな。

俺の順位が元の位置あたりに戻ったという以外には特に何もない出来事だったので、割愛させてもらう。だから気にするな。
気にしないでくれ。
気にしないでください。


それだけの日数が経過したにも関わらず、今年の梅雨はしつこくずるずると続いていた。
大きくはない雨粒が控えめに窓をたたいている。豪雨でなくてもそんな天気が毎日続けば鬱陶しい限りだ。


ちなみにあの日に仲良く(?)なった庭師は、のちの集会で全校生徒に紹介されていた。元ホストというだけあってスーツの着こなし方はどこか間違っていたが、スピーチはなかなかにしっかりしたものだった。


1学期の全ての行事が終わった今の時期、授業は聞くに値するほどのものではなく、あとは夏休みが始まるのを待つだけだった。

そんな7月中旬のある休日。食堂にいた俺たちは、だらだらと雨粒の流れる窓に近い席で遅い朝食を摂っていた。
そこで冒頭のゆうかの台詞に戻るわけである。


「あー、食べたい食べたい」

「な、なんでいきなり……」

「知らないわよー」


フロランタンとは、タルト生地の上にキャラメルでコーティングされたアーモンドなどのナッツ類をのせて焼き上げた、フランスとかそのへんのお菓子である。


俺は料理はしないし得意でもないが、お菓子作りだけはたまーにやったりする。
基本的には型抜きクッキーとかそういった簡単なものしか作らないが、稀にゆうかが見つけてきた至極めんどくさそうなレシピを元に、凝ったものを作ることもある。

俺は超甘党で、作ることよりお菓子は食べることが好きだ。
そしてゆうかも甘いものが大好きだ。ゆうかは買ったものよりもホームメイドの素朴なお菓子が特に好きで、時々急に食べたーいと言いだす。

しかし数少ないゆうかの苦手なものリストの中でも、料理はおそらくかなりの上位にランクインしている。

自然、作成は俺サイドになるわけである。

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