我妻教育
第三章

1.夫の意地

未礼が見つかったという連絡をうけ、
私と桧周たちは、急いで我が家に戻った。



家の者に連れられ、未礼は我が家に帰ってきた。





「…ただいまぁ…」


未礼は、小声で申し訳なさそうに腰をかがめて、玄関に入ってきた。



見るかぎり、どうやら無事のようだ。



「一体今までどこに行っていたのだ!」


「…えーっと…」

私の問いに、未礼は言葉を詰まらせた。




「とっとと答えな!」

釈屋久が、未礼の前に歩みより、未礼の頭にゲンコツを落とした。

「っった!!」

未礼は、頭をおさえてうずくまる。


私は思わずあっけにとられた。



「何で連絡の一つも入れないんだ!
あたしたちが、いや、…何よりこの子がどれだけ心配したと思ってる?!」



この子、とは私のことのようだ。

未礼は、頭を押さえながら、私を見上げた。


上目遣いの瞳は、涙がにじんでいる。

ゲンコツがそうとう痛かったのだろう。


「…ごめんなさい。ちゃんと説明する…」


「ケガは?」


「全然元気だよ」


「無事ならば良いのだ」



ほんとうに、良かった。


それ以上の言葉など浮かばなかった。


長い一日で、私はようやく安堵のため息をついた。


「未礼、とにかく中へ…」


「啓志郎くん!!」

涙目の未礼の瞳がハッと見開いた。


「どうしたのその手!!」

叫びながら私の手元に突進してきた。


私の左手の平には、包帯が巻かれていた。


先程のクラブで手当を受けたのだ。

幸い、血の量ほど深い傷ではなく、縫うほどでもないということだ。


「ドジを踏んだだけだ。たいしたことはない」


未礼は、いたわるようにそっと私の手をとった。


うつむいていたから表情は見てとれなかったが、手がふるえていた。



その姿が直視できず、私は目を背けた。


そして、玄関の外の人影を睨みつけた。


「いつまでもそんな所におらず、入ってきたらどうだ」



私の声に反応した、外の人影は、ドサリと何か重たい荷物を地面におろした。
< 85 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop