グリンダムの王族

お城の厨房

翌日、リズは通常の予定通り朝から一日お妃教育を受けて過ごした。

相変わらずそれは難解だったが、少し気持ちが軽くなったおかげでそれほど苦痛には感じなかった。

休憩を挟みながらいくつか講義を受け、日が傾き始めた頃に全て終わる。
その後は自由な時間となるのだが、部屋に戻ろうとしたリズに世話係の女官が意外なことを言ってきた。

「本日はカイン様より、リズ様を厨房のほうへお連れするよう仰せつかっております」

リズは思わず目を丸くした。
その意味はすぐに分かる。
昨日の今日で、早速我侭が聞き入れられたということだろう。

「ちょっと待っていてください。すぐ着替えますから!」

リズは慌てて部屋に戻ると、侍女に動きやすい丈の短い服を出してもらってそれに着替えた。
そして長い髪を両側におさげに結う。
そうしてみると、なんだか平民に戻ったような気分だった。
待っていた女官はリズのその格好を見て、ちょっと驚いたような顔をした。

「こちらへどうぞ」

女官はそう言ってリズを案内した。

厨房は居館からはずいぶん離れていた。食事を運ぶのは一苦労に違いない。

リズは侍女達の苦労を察しながら、女官の後を歩いた。

長い廊下を経て、厨房へと辿り着く。
石の壁にぽっかり開いたその入口からは中の光が漏れていた。
女官と一緒にそこをくぐる。
その瞬間、目の前の光景にリズは思わず「わぁ、、、」と声を漏らした。

厨房は予想以上の広さだった。
入ってすぐ短い階段が下へ延びており、降りた先から奥へと石の床が広がっている。
真ん中には大きな作業机がいくつか並べて置いてあり、今その机では多くの侍女や料理人が働いていた。
周りには壁に沿って水場、釜戸がいくつも並んでいる。
夕食の準備中の厨房には食材のいい香りが漂い、高い位置にある窓に向かって白い煙が上っていた。

厨房に入ってきた女官とリズを、仕事中の人たちがちらりと見た。けれども手は止めない。今が一番忙しい時に違いない。

やがて王族付きの女官の姿を認めて、男が1人駆け寄ってきた。
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