腐ったこの世界で
Ⅱ・ようこそ社交界へ

*――出会いとは



きらびやかな世界。それは俺にとって見慣れたものだった。幼い頃から社交のシーズンになると、屋敷では毎日のようにパーティーが開かれていた。ここ数年で俺にとって社交界は、さらに身近なものになっていたが。

「久しぶりだな。お前がうちのパーティーに参加するのは」

シャンパングラスを片手に壁際に立てば聞きなれた声が近くから聞こえた。顔を上げると見知った男が近づいてくる。
自分にどことなく似た顔。そいつは広間中の視線を引き連れて俺の隣に立った。
ジェラルド・ディラン侯爵。エーリアス公爵の息子で俺の母方の従兄弟だ。

「公爵から直々に誘われたからな」
「なるほど。父上に捕まってしまったのか。最近はずいぶんと早く屋敷に帰ってたみたいなのにな?」

意味深な言葉が鼻につく。思わず顔を歪めれば、ジェラルドは楽しそうに笑った。
昔からそうだった。なんでも知ってる、という顔で俺の隣に並ぶ同い年の従兄弟。昔は何かと引き合いに出されたりしたな。

「そういや最近、殿下にお会いしたか?」
「……いや、」
「たまには顔を見せろよ。弟殿下方も楽しみにしてるらしいから」

ジェラルドの軽い口調に俺は眉を寄せた。簡単に言ってくれる。俺たちがこうやって話すだけでも、あちこちから視線を感じるのに。
このきらびやかな舞踏会には似つかわしくない鋭い顔の貴族たち。所詮、華やかなのは表面だけなのだ。


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