腐ったこの世界で

*淑女への道



私の最近の午後の時間はもっぱらダンスとマナーの練習に当てられていた。正直、これがなんの役に立つのかあたしにはさっぱり分からない。

「ごめんね、いつも付き合わせちゃって」

すっかりあたしのダンスの練習相手となってしまった使用人の青年に謝れば「気にしないでください」と言われた。うぅ…。ここには本当に良い人ばっかりだ。
最初は足を踏んでばっかりだったダンスも最近はようやく形になってきた。できるようになれば少しは楽しく思えてくるもので。

「…うまいじゃないか」
「っ、」

聞こえた声に動揺してしまったあたしは、相手の足を思いっきり踏んでしまった。その瞬間、相手の顔が思いっきり歪む。あたしは慌てて飛び退いた。

「ごめんなさい! どうしよう…冷やした方が…」
「大丈夫ですから」

とても大丈夫そうには見えないんだけど。それでも彼は足を引きずりながら部屋から出ていった。さすがだ。今度必ずお詫びをしよう。
あたしは足を踏む原因になった男を振り返った。伯爵は軽く肩をすくめながらこっちに向かって歩いてくる。

「邪魔をしたかな?」
「間違いなくね。仕事は終わったんですか?」

最近の伯爵は返ってくるのが早い。それとも貴族ってこんなに早く仕事が終わるのかしら。憮然と伯爵の顔を見上げるあたしに、伯爵は苦笑いをした。


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