桜の下で ~幕末純愛~

弌ノ二

翌朝。

まだ薄暗いうちに沖田は目覚めた。

…やはり、戻れませんでしたか。

目が覚めたら屯所に戻っていればと、微かな期待をしていたのだ。

さて、私はどうしましょう?まずは“ようふく”に着替えなければいけないですね。

服は桜夜が昨日のうちにどう着ればいいのか、いくつか組み合わせて置いておいた。

着替えを済ませ、布団を畳み、音を立てない様にリビングへ向かった。

まだ美沙子も桜夜も寝ていた。

「朝は冷えますね」

沖田はソファーにただ座っていた。

空が白んできた頃、カーテンの隙間から昨日の桜の木が目に入った。

自然と庭に向かう。

庭の端に竹箒が置いてあった。

―庭の掃除でもしましょうか。

沖田は何気なく掃除を始めた。

始めは順調に掃いていたものの、箒は次第に竹刀と化していた。

ヒュン、ヒュンと音をさせ、箒を真剣に振り下ろす。

額にうっすらと汗が滲んできた。

6時を過ぎた頃に桜夜が起きてきた。

「おはよ」

美沙子はすでに着替えを済ませ、朝食が出来上がる頃だった。

「おはよう。もう出来上がるわよ。着替えてらっしゃい」

「はぁ~い。…って、沖田さん?」

桜夜がふと庭に目をやると汗をかいて箒を振る沖田の姿が見えた。

「あ、そうだったわ。集中してたみたいだから声をかけなかったの。長い時間やっていたみたいね。そろそろ声をかけてもいいかしらね」

こりゃ、女の子は瞬殺だなぁ。

桜夜は沖田に見とれていた。

あまりに見つめているのでその視線に沖田が気付いた。

「おはようございます」

我に返り、パジャマ姿の自分が恥ずかしくなった。

「おっおはようございます」

桜夜は返事だけすると、走って部屋に戻った。
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