飴色蝶 *Ⅰ*

穢したくない

「ほら、手、貸して
 俺が、駅まで送って
 行ってやるよ
 
 こんなところに
 お馬鹿な、おまえ
 置いて置けないし」

私の差し出した右手を
彼は離れないように
強く握り締めてくれた。

庵先輩に、リードされて
歩く町並みは、素敵とは
決して言えるものでは
なかった。

路地裏で泥酔して眠る人
はもちろん

家に帰らないで路上に
座って、たむろする
学生の騒ぐ声。

その中を抜けて
駅へと向かう

朝の日差しの下を
手を繋ぎ

ラブホテル街から
出てくる私達二人を
会社へ向かう人達は
厭らしい目つきで
見つめる。
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