アリスズ

二つの花

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 その町で、最初に彼女と出会ったのは──ダイだった。

 二人のイデアメリトスとケイコを、領主の屋敷に預けると、部下と二人で情報を得るために、支部の詰め所へと向かおうとしていた。

 既に日は、かなり西に傾きかけている。

「おっ」

 そんな、驚きと楽しげな声が、彼の鼓膜を打ったのだ。

 ダイは、反射的に振り返っていた。

「ダイ──! ───!」

 そして。

 彼女は、ダイに近づきながら、分からない異国の言葉で語りかけ始める。

 いつもそうだった。

 多少言葉を覚えても、この娘ときたら、ダイ相手には進んでこの国の言葉を使わないのである。

「隊長…?」

 部下が、怪訝そうにダイを見上げてきた。

「隊長? ダイも、随分偉くなったな」

 その声を聞きつけて、ついに彼女は笑い出す。

 なまりの少ない、綺麗なこの国の言葉が、ついにその唇から飛び出した。

 たどたどしい単語しかしゃべれなかった頃とは、まったく違う。

 よほどよい言葉をしゃべる人間に、言葉を習ったのだろう。

 ふぅ。

 ダイは、ため息をついていた。

 別れた時と、まったく変わることのない彼女は、いま自分が問題の種になっていることを知らないのか。

 同行しているのが、彼女かもしれない。

 そう聞いた時、ダイはそうでなければいいと思った。

 だが。

 ここで、出会った。

 都へ行く者たちの通る道。

 歌の噂は、すべてその街道の町から伝えられていて、だんだん近づいてきていた。

 その延長線上のこの町で、彼女と出会ったということは──噂にくっついていた者が誰だったのか証明されたようなものだ。

 ダイは、ほんの少しだけ視線を動かした。

 彼女の近くに、その人物がいないかと探したのだ。

「ああ…そういう理由か」

 わずかの視線の移動だけで、彼女は全てを理解した。

「よかったら、一緒に行かないか?」

 彼女──ヤマモト・キクは、理解した上で笑ったのだった。
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