天使の足跡〜恋幟











11月も3週目に入り、また少し寒くなった。

アパートも結構古くて寒いけど、僕の出身地はこれ以上に寒いので、あまり贅沢は言えない。


その頃、太田が僕のアパートに戻ってくることになって、僕らはまた共同生活を始めた。


バイトから帰って来た僕が、玄関のドアを開けるなり、


「お帰りなさーい」


と、太田の微笑みが出迎えた。

料理をしていたらしい。手にはフライ返しが握られていて、伸びた髪を後ろで結んでいる。

部屋に上がってキッチンを覗き込むと、フライパンの上でハンバーグが美味しそうな音と香りを放っていた。


「拓也くんも食べるでしょ?」

「食べる! ありがと」


太田がうん、と頷いた後、まとまりきらなかった横髪を、すっと耳に掛ける仕草をして前に向き直る。

僕は、その一瞬の出来事に見とれてしまった。

髪を結んでいると、やっぱり女の子だ、と思う。

前より、髪が伸びたせいかもしれない。


「いっそ女子だったらなー……」と心の中だけで呟いたつもりが、うっかり外に漏れていたらしく、


「ん? なにか言った?」


と太田が振り向いたが、どうやらハンバーグの焼ける音が幸いして、聞こえてはいなかったようだ。


「あ、いや、別に」


僕って奴は、何を考えてるんだか。

我に返ってリビングに進むと、洗濯物はベッドの上にきちんと畳まれているし、出しっぱなしのマンガや教科書が、あるべき場所に収められていた。


「キレイになってる!」


感心しながらも、太田が戻ってきたことの有り難みを実感する。
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