花嫁と咎人

愛すべき盗人


テラスパーレに着くが否や、


「ここで待ってろよ、誰に話しかけられても返事は絶対にするな。」


と言い残し、ハイネは私がサミュエルから貰った貴金属の一つを質屋に売りに行った。


「…お金、ね…。」


確かに最低限の賃金は必要。
タリアから貰った食料も一日分しかなかったし、仕方が無いのは仕方が無いけれど…。


「そんなに早く売りに行かなくても…」


少しだけ、しょんぼりしながら私は溜め息をついた。

せっかくサミュエルから貰った大切な物なのに。

…噴水に写る私の顔は、やはり冴えないものだった。

テラスパーレは、2番街よりかは貧しそうだけれど、案外活気もあって…人の出入りも激しい様子。
町行く人達に話しかけられるどころか、誰も見向きもされない。

身なりは男だし、ずっと歩いてきたから服も汚れているし。
当たり前ねと私はボーっと歩く人達を眺める。

そういえば、城にいる時もこうやって窓の外を眺めていたような気がするわ…。

勿論こんなにも人は見えなかったけれど何処か懐かしい。


「でも…ここは私の部屋じゃない。」


が、それと同時に寂しさがこみ上げてくる。
やはり、一人でいるのは苦手だ。

嫌な思い出が…脳裏をぐるぐると回って―…。


するとその時。


「…ね、君さ。」


声を掛けられ、顔を上げると…そこにはダークブラウンの髪と瞳を持つ男の人がこちらを見ていて。


―誰?


暫く私は硬直し…小さく首を傾げる。



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