AKANE
1章 サンタシ編

1話 碧い男

 ひどく寝苦しい夜だった。
 嫌な夢をみた。
 狭苦しい箱の中に閉じ込められている圧迫感。早く解放されたいのに、なぜか身体がピクリとも動かない。暗闇の中でなんとか声を出そうとするも、それさえも適わない。苦しさで喘ぎそうになるその瞬間、ふっと身体が浮き上がるような気がした。
 いや、これは夢ではない、実際に浮き上がっているのだ。
「ん・・・」
 重い目をなんとかこじ開けると、薄暗闇の中で自分が誰かに抱えられている格好になっていることに気付いた。
「え・・・? ちょっ!」
 慌てて身じろぎして身体を突き放そうともがくが、ほとんど効果は見られない。先程、なかなか寝付けなかった朱音は、数時間ベッドの上で寝返りをうってばかりいたが、確かに一刻程前に浅い眠りに落ちたばかりだった。なのに、今はこうして見知らぬ者に抱きかかえられている。これは誘拐か何かの事件に巻き込まれた以外に考えようがないではないか。
「起こしてしまいましたか・・・」
 すぐ上から降ってきたのは、意外にも落ち着いた男の声。
「なにすんの!? はなしてってば!」
 抱えられた手足をバタつかせるが、男の腕に力が加えられてそれも呆気なく封じられてしまう。
「ご無礼とは承知でお迎えにあがりました。今ここでお放しすることはできません。時間に限りがありますので」
 月明かりで男の顔がうっすらと浮かび上がる。吸い込まれそうな冷たい碧い瞳。息を呑む程の美しい顔立ちは、見慣れた大和の顔立ちではなかった。瞳と同じ碧い髪は長く、一つに結わえられている。全てにおいて整いすぎている男の表情は、“冷たい”という言葉が適切な表現のようにも思える。




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