AKANE

3話 異なる世界

深いまどろみ中で、朱音は懸命に瞼を持ち上げようようとする。
(眠い・・・)
 ひどい眠気がする。昨日の奇妙な体験で精神的に余程疲れていたらしい。いや、あれはひょっとすると夢だったのかもしれない。受験を控えた十五歳の朱音にとっては、現実逃避という密かな自己防衛に走り始めていたのかもしれない。
「ん・・・」
 重い瞼を持ち上げると、朱音は僅かに数回目を瞬かせた。
 ふかふかのベッド。見慣れぬ部屋の天井。
 驚きで飛び起きると、部屋の周囲をぐるりと見渡してみた。
 天井と思っていたのは実は天蓋付きのベッドで、部屋の中はフランス王朝に登場しそうなテーブルが一つ。壁際には恐ろしく光沢のある引き出し付きの棚が置いてあり、そのすぐ上には巨大な絵画が吊るされていた。
(嘘・・・、あれは夢じゃなかったの?)
 信じられない光景に、すっかり眠気が吹き飛んでしまった頭で、ベッドからおそるおそる這い出すと朱音はベッドから足を降ろす。
 すると包帯に巻かれた自らの足が目に飛び込んできた。
(そうだ、わたし、足を怪我して・・・)
 よく見ると、朱音が身につけていた泥だらけのTシャツとハーフパンツは、いつのまにかゆったりとしたワンピース型の白い服に着替えさせられている。
 戸惑いつつも床に足を降ろすと、床についた足は途端に鈍い痛みを訴えた。
 パニックを起こしそうな思考回路の中で、一種の冷却装置のようなものが働いて、自分が何かの事件に巻き込まれて、眠っている間に外国の地へ拉致されたのだと冷静に自分自身に言い聞かせる。
(そうよ、そうに決まってる)
 痛む足を引きずりながら、朱音は絵画の前に足を進めた。
広大な緑の野に囲まれた地のすぐ下は崖になっており、その崖のすぐ上を美しい古城が太陽の光を浴びて輝いている。城のすぐ手前には透き通る程の美しい湖。崖下は深い森が広がっていた。
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