揺れない瞳
ひまわりと彼




ほんの少ししか髪を切らなかったのは、勇気が出なかったから。
肩下10センチの髪は、5センチくらい短くなっただけ。
気持ち的にも外見的にもそれほどの変化はなかった。
美容室で鏡の前に座る度に『ショートにしてください』って言いたくなるけれど、それはいつも言えずにいた。『今日もそろえるくらい?』って尋ねられると条件反射で『はい、それでお願いします』と答えてしまう私。
なんて臆病者。

美容師さんに相談して、ショートにしてみたい願望は、今日も遂げることはできなかった。

毛先をすいて、ほんの少し軽やかにまとめられたボブ。
前髪を目の上にそろえたスタイルは私自身の定番。
同じ美容室で同じようにカットしてもらって5年。

何に関しても臆病で、思いの奥深いところは隠したままじれったく生きてきた。

それでも、今日は。

『ほんの少し、カラーいれてみますか?』

担当の美容師さん、庸子さんがいたずらっぽい笑い声で聞いてくれた途端、

『……っ……はいっお願いします』

自分に似合うのかどうかも考えずに即答してしまった。

生まれて20年。

まっすぐに伸びた艶のある黒髪を、ほんの少し茶色に染めてみた。



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