失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

腐っていってもいい





でももう

そんなひどい男無しにも

いられないようになってきてる

逢いたいなんて思っていない

抱かれなきゃいられないだけだ

クスリと酒がなければ

すべてはゴミ溜めの汚物

自分が腐っていっても

その中では臭わない

好きなんじゃない

慣れたんだ

そいつと居ることに

優しいフリと軽薄な言葉に




最初は酒に混ぜていたクスリも

いまはカプセルで飲んでる

なんのクスリかは知らない

もっとイイのがあるって

いつも言われる

僕はそれは無視する




そいつは僕だけと居る訳じゃない

“仕事だ”とか

“今日はダメ”とか

何をしているのかは知らない

でも人の身体を狂わせて

もてあそぶ才能はすごいと思う

あの人とは違う才能

野生の本能ってヤツかも知れない




少しずつクスリに蝕まれていくのが

最近わかる

男に会えない日が辛い

クスリが切れても会えないとき

僕は具合が悪くなる

アルコールでまぎらわせるけど

違う焦燥がどこかでうごめいて

苦しい

それでも正気の方が

もっと辛い

教会から逃げてきたあとの僕は

抜け殻の白痴の人の形をした何かに

なり果てた

その苦痛から逃れるためなら

僕はあの男と寝る



自分を信じること

それが手の中で崩れた

いまそれをどうやっても

つなぎ合わせることができなかった

その苦しさを

本当の地獄というのかも知れないと

僕は身をもって

覚えさせられていった
















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