ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―

2

 洋二のバンド、フラワー・オブ・ライフは、ロックが入ったポップスで、
ライブは思ったよりお客も入って盛況だった。
アマチュアの中では中規模のライブハウスに、何組か出演する。

ミツは洋二のファンにもまれながら、ただ圧倒されていた。
薄暗いフロアを眩しいライトが射抜き、
洋二の高くかすれた歌声に女の子がきゃーきゃー言っていた。

 林か誰か、誘ってくればよかった。
と、ミツはあまりの熱に少し後悔した。
しかし、専門学校の友人で会えばあの映画はここが悪いだの、
脚本がいまいちだの言い合う仲の林に、
こんなにも興奮している自分を見られるのは、
やはりない、ともミツは思うのだった。

 ステージに立つ洋二は眩しかった。
スポットライトの影響が八十パーセントあるとしても、
残りの二十パーセントは間違いなく洋二の輝きだった。

赤茶の髪が透き通って、汗でぺとりと顔に毛束がつく。
絞り出すような洋二の叫び声が、ミツの耳の奥でぐわんぐわんと響いた。

 ここにいるんだ、と自分の存在を知らしめるように歌う洋二。
遠くを睨みつけて、足を踏みしめている。

 巨人のポケットに放り込まれたかのようにフロアは揺れて、
人でひしめきあっていた。
色とりどりに変わる照明の色と共に、肩にぶつかっては押し戻されて、
ミツは挟まれたり、潰されたりしていた。
まるで体の境界線がなくなったように感じた。
曖昧になったミツの輪郭を、洋二の叫び声が貫いていく。
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