抹茶な風に誘われて。

Ep.6 茶会

 一期一会という言葉を知っている? かをるちゃん。

 人と人との出会いは一生に一度しかない、大切なもの、という意味なの。

 だからどんな人とでも、出会いは縁だと思って大事にしなきゃだめよ。

 あなたが先に信じてあげれば、相手もおのずと心を開いてくれる。

 先生はね、そう信じてるわ。

 だから、かをるちゃん。

 あなたはいつでも笑っていて――あなたの笑顔にきっと、誰もが優しい気持ちになれるはず。

 たとえどんな辛いことがあっても、人を信じることをやめないで――。


 そう言ってくれた先生は、事情ですぐに園をやめてしまったけど、その言葉だけはずっと耳に残っていた。

 だから私は笑うことをやめなかった。

 人を信じることをやめなかった。

 たとえ両親にもう会えなくても、たとえ自分は捨てられたのだとしても、きっとそれは仕方がないことだったから。

 誰も皆、人を傷つけたくて傷つけるんじゃない。

 心の中では優しさと愛を求めてる。

 私はそう信じてきた。

 だけど時々不安になる――こうして自分だけ信じていても、他の皆が信じてくれなかったら意味がないんじゃないかって。

 笑顔になれない気分の時、どうしても辛い時、私はどうすればいいんだろう。

 そう考えたら、暗い闇に取り残されたような気持ちになる。

 やっぱり世界は私が思うほど優しくも、綺麗でも、明るくもなくて――どこまで進んでも、出口のないトンネルみたいなものなのかもしれないって。

 途端に足元にすくう穴に落ちていく。

 心の怯えにつまずいてしまう。

 もし、信じてた全てが嘘だったなら。

 もし、笑顔の裏が偽りだったなら。

 私はその時、本当の『孤独』から抜け出せなくなるんじゃないかって……。
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