crocus
crocusの夜
翌日、昨日と同様に午前11時に開店したクロッカスは、午後3時をもって昼営業を終了した。
次に開店となる時まで店員さん達は思い思いの時を過ごしていた。金曜と土曜の夜は大体こんな感じらしい。
若葉はというと、初めての2部営業に緊張と期待の両方を胸に、花壇の手入れをしていた。
アイビーゼラニウムは相変わらず、気持ち良さそうにぽかぽかの陽の光を浴びて、風が吹くままに揺れていた。
"若葉…花はね、強いんだよ。どんなに踏みつけられようが咲くんだよ。だから時間はかかってもその力を信じてあげるんだよ"
何度も何度も繰り返し聞かされたお父さんの言葉を思い出す。
ふと、人もそうなんだろうかと考える。
オーナーさんは、あの店員さん達のことをどうして花に例えたのだろう。それはまるで…
「…ちゃん。若葉ちゃん?」
「へ?あ、はい!」
意識を戻した若葉は声がした方を見ながら、すぐさま立ち上がる。ドアの隙間から上田さんが顔だけを覗かせていた。
「大丈夫か?」
「はい。ちょっとぼんやりしてて…どうかされましたか?」
「あー、俺ら全員で銭湯行くんだけどさ、若葉ちゃんもどうかなーって誘いに来たんだけど…野郎ばっかじゃ、な…」
本当にぼんやりしていただけだけど、元気がないように見えてしまったのだろうか。
自分のことも誘ってくれて嬉しいこと、とっても元気だということを身振り手振り付きで伝えた。
そうすると上田さんは「そっか!」と明るく笑い、喜んで店内に戻っていった。
ただ少し呆けていた。それだけで心配してくれたことが申し訳なくて、でも嬉しくて。
若葉はじーんと胸が震えるのを感じていた。
出会ったときからずっとずっと優しいなぁ…。
何も出来ないけど、せめて明るくしてなきゃ!
よしっと両手の拳を空に振り上げて気合を入れなおした。ついでにひとつ伸びをした後に、銭湯に行く準備をするために店内の扉を軽やかに引いた。