crocus

ツヤツヤ卵焼き


そんな小学6年生の時の出来事が簡潔に綴られた文章を、真剣に読む若葉。

その優しい横顔の向こう側を見つめながら、琢磨は苦々しい今日の流れを思い返した。

◆◇◆◇◆◇◆◇

じめじめと重い湿気を感じて目を覚ませば、案の定大雨の今日の朝。

朝食でも立ち退きの話し合いの話題に更に気分が滅入って、ついには心配そうな目をしている若葉の視線すら逸らしてしまった。

自己嫌悪に苛まれたまま部屋でゲームをしていれば、突然ヘッドフォンが耳から離れ、雨の音が鮮明に届いた。

そのことに驚きと今までの苛立ちを、怒号に変えて暴発させてしまえば、目の前には体を震わせて怯える若葉がいた。

しまった……、と後悔してもなんと言えばいいのだろう。何度も何度も謝る若葉がやけに遠く感じた。

──また繰り返すのか、また上辺だけの作った自分で付き合っていくのか。

そう考えていれば、若葉の背中がドアの向こうに見えた。次の瞬間、パタリと閉まった扉を見て、出て行ってしまったのだと分かった。


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