crocus

もみじの木

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今日の流れを思い返していれば、怒鳴ってしまったこと、料理をひっくり返してしまったことが琢磨の心にズキンと擦り傷を作った。

キュっと唇を噛み締めて反省していれば、携帯から顔を上げた若葉が視界の端に映った。

どんな表情をしているかやや覗き込むように見上げれば、なんとも言い表せないほど切なく瞳が揺れていた。

不謹慎にも綺麗だという感想が頭によぎって、おいおいと一人ツッコミを入れた。

ぎこちない間を埋めるため、琢磨は若葉の手から携帯電話を奪うと、今の思いを素直に綴って見せた。

『最後まで読んでくれてありがとな。若葉になら言ってもいいって思ったんだ。こんなやっかいな部分があるオレだけど、これからよろしくな?』

その文章を見せると、ぶんぶんと顔をしかめながら頭を振る若葉。

よろしくしてくれねぇの?そんな考えが一瞬体を冷やしたが、携帯を通しての若葉の返答でそれは違うことが分かった。

むしろ……意外な言葉に不意をつかれて視界がぼやけてしまった。

『話してくれてありがとうございました。次に雷が鳴りそうなときには、私が琢磨くんの目を、耳を塞ぎにいきます』

出来事を想いを文章にする間、若葉が読むのを待っている間、何度過ぎた冗談にしようと思ったか、どんなに恐かったか、若葉は知らないだろう。

ただ笑わずにバカにしたりせずに読んでくれただけでも、これから真剣に向き合っていける奴だって思えた。

それが分かっただけでも話して無駄じゃなかったって思わせてくれたのに……、それだけで十分過ぎるくらい救われた思いだったのに……。

どうやら若葉は手の届く距離で支えてくれるらしい。もう1人で怯えてなくてもいいんだと解放された気分になる。



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