魔王と王女の物語

影からの声



ラスが最初に覚えた言葉は…


「コー」


だった。


カイの「カ」でもなければ、


ソフィーの「ソ」でもなかった。


父王は躍起になって違う言葉を覚えさせようとしたが…


「コー」


『はいはい、チビは早く寝て早くエロく育って早くヤらせろ』


「コハク!!」


抱っこをせがんでくるラスは…


6歳になった。


「コー」以外の言葉も覚えたが、


物心つく前からずっと傍にいたのは、


自分の影から響く声の持ち主。


――影から切り離すことはできない。


始終ついて回る声は、


いつしかラスの呼びかけにしか答えなくなるようになっていた。


――カイは金の髪を陽光に反射させながら城を出て、森の中をラスと散歩した。


ようやく魔王を倒して束の間の平和を人々は喜んでいたが、


魔物の数は全く減っていない。

むしろ増える傾向にあり、

各国は国の名ともなっているゴールドストーンやホワイトストーンといった至宝の石を崇め、


石の回りには魔物は近づくことができずにいた。


「ラス、あんまり影に話しかけては駄目だよ」


濃緑でありつつ生命の息吹に溢れた森は、様々な角度から様々な表情を見せて、


ラスが腕を広げてやっと抱えられるほどの苔の生えた岩に留まって太陽の光を集めている蜥蜴を指差す。


「これはー?」


「ラス、それは動物だけど、魔物は喋るんだ。喋って惑わせて、食べてしまおうと思っているんだよ」


蜥蜴の尻尾を撫でながら、ラスは首を捻って自身の小さな影を見つめた。


「コーも?」


「そうだよ、コーとも話しちゃ駄目だ。食べられてしまうからね」



くつくつと笑う声と共に、

小さな小さな呟きが聴こえた。



『違いない』


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