揺れない瞳


『ひまわりあげる』

そう言って芽依ちゃんから渡されたモチーフは、毛糸で編まれたひまわり。

直径3センチくらいのひまわりは、丁寧に、綺麗に咲いていた。

『何?どうしたのこれ。芽依ちゃんが作ったの?』

『ふふっ。かわいいでしょ。年下の可愛い友達が作ってくれたのよ』

『へえ。器用だな』

単純に、綺麗に編んである事に感心した。
均等な編み目が並ぶひまわりは、一目一目心を込めて作ってあるのが簡単にわかる。

『売れるんじゃない?』

軽くそう言う俺に優しい笑顔を向けた芽依ちゃんは、昼寝をしている夏芽を胸に抱きながら、まるで自分が誉められたように顔をほころばせた。

歳が離れてるせいか、俺が小さな頃から保護者のように俺を可愛がってくれた芽依ちゃん。
俺が中学に入学する前には家を出て一人暮らしを始めた。
自宅から遠い大学に入学が決まったからだと、当時は納得して何も疑うこともなかったけれど。

芽依ちゃんの本当の父親が、俺の父親とは違うと聞かされた時。
それまでに何度も見た事がある芽依ちゃんの寂しげな表情の意味と、一人暮らしを始めた理由がわかってしまった。

何を言うでもなく、俺には優しく温かく見守ってくれる視線だけを向けてくれて、親と喧嘩した時にもいつも味方になってくれた自慢の姉。
俺を残して家を出た時には見捨てられた気がして寂しかったけど。

俺たちが異父姉弟だって知って、芽依ちゃんが家を出てしまう状況を作った一番の元凶は、ほかの誰でもなく俺だって気付いた。

そして俺の心はただ、芽依ちゃんの幸せを願うしかできない冷たいものになった。


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