優しい手①~戦国:石田三成~【完】

三つ巴

“どこから来たの?”


その言葉の意味が、まさかそういうことだったとは…。


桃はパニックになりつつ、この穏やかな笑みを浮かべている謙信と名乗った男を見つめた。


「あ、あの…上杉、謙信…さん…」


「うん、なに?」


気軽に話してくれるこの男。


戦を嫌い、けれど誰よりも戦に強かった無敗の男。


「え、えっと…なんでも…ありません…」


「ふふ、気になるね。とりあえず兼続と合流しよう。その馬、私を乗せてくれるかな?」


手綱を引くと一度嫌そうな素振りを見せたがそのまま頭を下げたので、謙信は桃の脇を抱えて馬に乗せた。


「石田三成の元に居るんだったね?悪さ…されてない?」


ひらりと後ろに乗っては背中に謙信のぬくもりを感じて、桃は上ずりながら俯いた。


「はい…あの…とってもよくしてくれてます…」


「そうか、それはよかった。越後は姫を歓迎するよ。寒いところだけど、とても良いところだよ」


――何故越後に招かれなければならないのか?


何故謙信は、自分を知っているのか?


聞きたいことは山ほどあれど、緊張している桃は謙信にどぎまぎするばかりだった。


「家督争いって…もう済んだんですか?や、若いからまだ養子なんか取ってないか…」


また聞いてはならないことを聞いてしまったのは、謙信が全てを知っているような気がしてならなかったからだ。


仏に…毘沙門天に愛された男。


若くして、逝った男。


「景勝と景虎のことだね。あれらはまだ幼い。私が生存しているうちは、平等に育ててやりたい」


すると…


「…!や…っ」


ふっと耳元に謙信が息を吹きかけてきた。


ぞくぞくと背筋が震えて前のめりになると、手綱を握っていないもう片方の手で腰を抱いてきた。



「私は、君に会いに来た。毘沙門天の啓示でもあり、姫は…私のものとなる」


「…謙信さんの…ものって?」



恐る恐る肩越しに振り返ると、謙信は端正な白い顔立ちをさらにやわらかくして微笑した。


「さあ、どうだろう?姫から答えを聞きたいな」


…ドキドキしっぱなしで答えられなかった。
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