揺れない瞳



一人でいる事には慣れているのに、自分から去っていく後ろ姿を見るのは慣れる事はなくて。

単純に、大学を終えて駅前で加絵ちゃんと別れる些細な時でさえ小さな痛みを感じてしまう。

また明日も会えるのに、離れていく加絵ちゃんの背中をじっと見つめながらため息を我慢して改札を抜けた。
気分を変えるように足早に階段を下りて、突然舞い込んだ展開を思い出さずにはいられない。

『先月出してくれた作品、最終に残ったから』

突然先生から伝えられたのは驚き以外感じる事のできない言葉だった。

年に一回催される学内の作品発表会は、被服学科に在籍している学生全員が対象。
テーマも規制も何もなくて、ただ自分が持っている力を出し切る事だけを求められる。

初めて参加した去年は、訳がわからないままに終わってしまった。
去年は『ピアノの発表会で着る子供ドレス』を作って提出したけれど、一次すら突破できないままに自分の実力のなさを思い知らされた。

まあ、仕方ないかとあっさり受け入れて諦めて。
今年は義務感だけで提出した。

どんな作品にしようかと迷いつつも、作り上げたのはウェディングドレス。
真っ白なAラインは、どちらかというと甘い雰囲気でリボンやらレースやらふんだんに使った可愛いドレス。

私には縁の無いものだと客観的に作ってしまったドレスは、提出日までまだまだ余裕のあるうちに完成させて、深く考えずに提出して…。

正直忘れていたのに。

最終審査に残ってしまった。





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