四竜帝の大陸【青の大陸編】

17

『死人が出なくて良かったですね~』

しみじみと言うと、俺は陛下に殴られた。

『ダルフェ! てめぇがさっさとヴェルのつがいの娘を帝都に連れてこねぇから、こんなことになったんじゃねえかっ!』

旦那が消えた後。
医務室に大臣達を運び込み、王子を医師に見せ。
腰の抜けた少女を立たせてやり、のびてる魔女閣下をたたき起こし……。
忙しく動く俺に、陛下は容赦ない。

『この無能! 役立たず!』

さすがハニーの主。
罵倒台詞も同じだ。
 
『青の竜帝様、これは一体』

医務室には、大臣の一人に付き添われた王がいた。
咽喉に薬を塗られ、包帯を巻く息子を見て絶句している。

大臣……ゼイデは陛下に説明を求めた。
だが、陛下は瑠璃色の眼を細めて……無視した。
ゼイデの眉がぴくりと動いたが、それだけだった。

異議を唱える権利は‘人間’には無い。

『義父上』

ダルド王子は咽喉に手をやり、呟くように言った。

『私は【人間】が知らなくていいことを、気づくべきでは無いことを……』

この王子は6歳から10歳まで、帝都で過ごした。
ある理由から‘特例’としてそうなったらしいが、俺は興味が無かったから詳細は知らない。

ただ、親代わりに面倒を見ていた陛下が王子を今でも特別扱いなのは、ハニーから聞いている。
側近中の側近であるハニーを、こいつのために帝都から派遣するほど……。

『そうだな。お前は昔から賢かった』

陛下は王子の額に小さな手をかざした……陛下の竜体は旦那とそっくりだ。
色が違うだけで大きさ、姿形は全く同じ。

俺やハニーの竜体とは違う……最上位竜だけがとれる【凝縮体】。
青の竜帝には旦那さえ持っていない、特殊な能力がある。

『忘れろ。【人間】として幸せに生きる為に』

記憶消去。
王子が意識を失い垂れ込むのを小さな青い竜が軽々と支え、静かに横たえた。

『ヴェルヴァイド。これは1つ貸しだな』

陛下が青い指を軽く弾くと、一人を残し全員がその場に崩れ落ちた。


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