優しい手①~戦国:石田三成~【完】

祝言

「桃がどこに居るか知ってる?毘沙門堂には居なかったんだけど」


――ある朝謙信が桃を求めて城内を歩き、兼続が言いにくそうに口を濁した。


「その…三成の部屋に…」


「ああそうなの。兼続、クロを正門へ。桃とちょっと出かけて来るよ」


――関が原から戻って来て、桃は1度も春日山城から出ていない。


いつもの元気の良い桃はすっかりなりを潜めていて、清野も随分心配して薬湯や少量で滋養のつくものなどを桃に食べさせていたが…


抱きしめて眠る度に、あの身体は細くなっている気がする。


「桃、入るよ」


中に入ると桃が床に横たわっていた。


三成の香りのする布団…その傍に居ると少しでも安心できるのだろう。

それは謙信にとって、良いことではなかった。


「桃、ちょっと出かけようよ」


「…ごめんなさい、そんな気分じゃないの」


「いやと言ってもついて来てもらうよ」


「え…、きゃっ!」


いきなり姫抱っこをされて落ちないように首に腕を回すと、何だか久々に間近で見た謙信の顔は…真顔だった。


「外の空気を吸うと気分も良くなるかもしれないからね」


桃を抱いて歩く謙信に衆目が集まったが、本人はそういったことは一切気にしない性格なので、


そのまま正門に向かって、そして久々に桃の姿を見たクロが興奮しまくって駆け寄ってくる。


髪や肩を甘噛みされ、頬を摺り寄せて来るクロの鬣を撫でてやり、ようやく桃に笑顔が戻った。


「さ、見に行こう」


気が付けば風は涼しく…桃を前に乗せてクロの腹を蹴り、城を出てしばらく無言のまま駆けると、


「うわあ、綺麗…!」


「稲刈り直前なんだ。黄金色で、綺麗でしょ?」


――当たり一帯が稲穂の絨毯に覆われていて、神々しく幻想的な景色が広がっていた。


越後の米は美味い。

桃の時代でもそれは有名で、誰もが知っていること。


「もうちょっと高台に行こう。もっと綺麗だよ」


「うん!」


少し元気になった桃の頬を撫で、高台を目指して山を登る。


謙信が桃に伝えたいこと――


幸村の危惧していたこと――
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