リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】

5.勝負の金曜

傍目には、なに一つとして変わっていないように見えていても、明子にとっては、怒涛のようなと言っても過言ではない、そんな一週間が過ぎた。

朝晩の通勤時は、できるだけ歩くように心がけて、会社でもできる限り、階段を使うようにした。

昼休みになるとすぐに気を利かせた木村から「お茶、淹れてきますね」と声を掛けられ、なんとなく、食堂に行くタイミングを逃して、なんだかんだで会議室で彼らと昼食を取るのが、明子の日常となりつつあった。
松山とのまったりトーンで交わすお喋りは楽しいものの、あなたはいつも一言多いのよっと、そう怒鳴りたくなる牧野の毒舌に、ついついついついムキになって食って掛かり、気がつくと、午後はがっつり戦闘モードで仕事をがしがしと片付けていた。

会社でも家でも、お腹が空いておやつに手を伸ばしそうになると、そのたびにどこかで牧野が笑っているような気がして、こんなことで挫折して堪るかと自分を叱咤した。

午前には、チョコレートを一欠けら。
午後は少しのナッツ類と数枚のガム。

一日のおやつはそれだけと決め、ひたすらそれを厳守した。

月曜日の件がこの一週間を暗示していたかのように、次から次へと舞い込む予定外の仕事は、結果的にはただのはた迷惑的プチトラブルで、毎日毎日それに振り回されながら、明子は提出期限間近の資料作りに励まなければならなかった。

毎晩毎晩。
へとへとになりながら、『高杉兄弟』だけを心の糧に、明子はこの一週間を乗りきった。
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