愛を待つ桜

(2)砂の城

「あの女が事務所に来たのか?」


翌日、聡は戻るなり夏海に詰め寄った。


「あのって、笹原さんのこと? ええ、来られたけど……どうしたの?」

「どうして昨日の電話で言わなかった!」


出張中でも1日3回は電話を掛けてくる。
業務内容の確認やら、悠の声が聞きたいやら、理由は色々だ。


「別に言うほどのこともないでしょう? 私が用件を聞きますって言ったけど、あなたに直接言いたいって。また来られるんじゃないかしら」


夏海の言葉に、聡は嫌悪感丸出しの表情をする。


「秋月から聞いた。あの女、まだ結婚指輪をはめてるらしいな」

「そう……みたいね」

「怒ってるのか?」

「どうして?」


努めて淡々と夏海は返事をする。口を開くと余計な事まで言ってしまいそうになるからだ。

そんな煮え切らない夏海の口調に、聡は何か誤解したらしい。


「いや……とにかく、今度は問答無用で追い返してやる! 2年前は、彼女の両親に泣きつかれて告訴しないでやったんだ。それに、私のほうから結婚を取り消した負い目もあった。だが、また同じ真似をしたら、今度こそは……」


夏海は黙っているつもりだった。
でも、ここしばらく聡を身近に感じ始めていたこと。そして、あまりに言い訳がましい言動も気に掛かり、言わずにいられなくなる。


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