強引な次期社長の熱烈プロポーズ

2.万年筆

神野百合香《かんのゆりか》が務めているのは老舗文具店。
23で入社して今は3年目。

1階がオフィス向け事務用品と、2階が高級志向の文具や鞄など。
百合香が担当しているのは2階。

光を照らされた万年筆やボールペンが並ぶショーケースのカウンターの中で接客することが多い。

そして、このカウンターの上司であり副店長でもあるのがメモの主、柳瀬智《やなせさとし》だ。


百合香は開店準備で屈みながらショーケースを磨き、柳瀬の行方を気にする。


「昨日は大丈夫だった?」
「わぁっ!!!」


頭の上で突然話しかけられ百合香はつい声をあげてしまう。

その声に驚いて目を丸くしていたのは同じく2階社員の坂谷純《さかたにじゅん》だ。
彼は百合香より3年先輩の28歳。入社当時は1階担当だったため、2階の社歴は1年差。どっちにしても先輩にはかわりない。


「二日酔いになってない?」


にこっと笑う目元はお客様にも好印象を与えているに違いない。
少し茶色がかった髪の毛を掻き上げ、百合香の視線に合わせて屈んだ。


「本当は僕が送って行きたかったんだけどね」
「え?」


そんな爽やかに、ストレートにものを言われると返答に困ってしまう。

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