愛は満ちる月のように

(4)ボストンの春 ―七年前―

しばらくボンヤリとイスに座っていた。

カタンと音がして振り返ると、そこに那智が難しそうな顔で立っている。休憩時間に入ったせいか黒のコックコートは脱いでおり、白無地のTシャツと黒のパンツ姿だ。


「久しぶりに会った奥さんを、ホテルまで送らなくていいのか?」


悠はそれには答えず、冷たくなったコーヒーに口をつけた。


「……離婚して欲しいってさ」

「そりゃ当然だな。あれだけ派手に女遊びをして、愛想を尽かされないほうが不思議だよ。まあ、普通の結婚なら、だが」


那智は少し呆れたような笑みを浮かべ、隣の席からイスを持ってきた。跨ぐように座ると、イスの背を抱きかかえるようにして悠を見ている。


「事情のある結婚なんだろう? 余計に、冷静になって話し合う必要があるんじゃないのか?」


悠は那智の言葉に、七年前、ボストンで美月と再会したときのことを思い出していた。


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