愛は満ちる月のように

(5)君を守りたい―七年前―

善郎が財産の管理権を有したとこで、息子たちはある程度の資産なら動かすことは可能だ、と考えていた。実際、そういったケースを彼らは多々目にしてきたからだ。

だがすぐに、藤原家から出された監督人の目を欺くことは不可能だと知る。

財産を動かすには正式な手続きが必要だ。

何より、桐生家の正統な後継者のみが有する権限。それを行使するためには、美月と婚姻を結ぶよりほかなかった。


彼らは婚姻届を用意し、美月が十六歳になりしだい提出できる準備をしようとした。

だが、問題は父親。親の許可がなければ、未成年の婚姻は認められない。脅そうが、金を見せようが、父親は首を縦には振らない。

そして、切羽詰った善郎の息子たちは暴力団関係者を使い、美月の弟を攫った。


両親の苦悩を知り、美月は自ら桐生のもとに出向く。

自分が相続したすべての権利を渡すから弟を返して欲しい、と。

彼女は知っていたのだ、自分が父にとって血の繋がった娘ではないということを。なんの関係もない自分のために、これ以上、桐生家の揉め事に家族を巻き込みたくなかった。


< 30 / 356 >

この作品をシェア

pagetop