愛は満ちる月のように

(7)50センチの距離

「キャッ!」


身体が傾いたとき、誰かにぶつかった。そのおかげで美月は石段から落ちずに済んだ。


「大丈夫ですか?」


そう声をかけてきたのは、美月と同じ年ごろの青年だった。

一瞬、ほんの一瞬だけ、悠が来てくれたのかと思い、美月の心は浮き立った。

だが、そんなはずがない。美月は怒りに任せて自分の食事代を払ってきてしまった。おそらく、悠のような男性にとっては一番嫌がることだろう。


(可愛げのない女だわ……自分でもそう思うもの)


唇を噛み締めたまま立ち尽くす美月に、ぶつかった青年の連れが顔を覗き込んできた。


「へぇーっ。すっごい美人さんだねぇ。ひとり? だったら、一緒に飲もうよ。さあ」


ふいに腕を掴まれ、引っ張られる。


< 45 / 356 >

この作品をシェア

pagetop