魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】

愛しきあなたへ

「ひょっとして…マリッジブルーですか?」


2階のバルコニーに出て行儀悪くテーブルに脚を乗せて投げ出していたコハクに声をかけてきたのは、恐れ知らずのオーディンだ。

グラースやリロイから事情はすでに聴いていただろうに、わざと聴いてくるとは…この男の性格の悪さが窺える。


「うっせえな、ほっとけ」


「コハク様…レディーには優しく、ですよ。女性はデリケートな生き物ですから、癇癪を起さずにラス王女に優しくですねえ…」


「なんでお前に説教されなきゃいけねんだよ。ちっ、俺よりてめえの心配をしろよな」


「ふむふむ、それはどういう意味ですか?」


真向かいに腰かけ、いちいち話しかけてくるオーディンを怒鳴ろうとした時――


「準備できたわ。魔王、ラスはグラースと馬に乗ってクリスタルパレスに向かうらしいから、お前はレイラとエリノアと一緒に行ってちょうだい」


ラス親衛隊のグラース、ティアラ、リロイに囲まれたラスが姿を現わすと反射的に腰を浮かしてしまい、一瞬ラスが嬉しそうな顔をしたが…心を落ち着けてまた椅子に座り直した。


「…わかった。……チビ、気を付けてな」


「…うん、わかった」


ラスが上目遣いではにかみ、それを見たコハクは妙なときめきを覚え、グラースと共に城内へと消えて行ったラスを目で追いかけ、胸を押さえた。


「コハク様?どうしたんですか?」


「…なんか…わかんね…。…チビに触りてえ」


「ラス王女が眠った後会いに行けばいいのでは?それを糧に今日も気張って下さい。さて、私も行きますよ。ローズマリー、行きましょう」


グラースと2人乗りをしたラスがグリーンリバーから出て行くまで見送ると、ようやく腰を上げたコハクはローズマリーに声をかけられた。


「…大丈夫なの?」


「なんのことを聴いてるのかわかんねえな。ほら、さっさと行けよ」


――ラスと離れたからこそ、もっと愛しく思える。

――コハクと離れたからこそ、もっと愛しく思える。


ラスとコハクは一旦距離を置いたが…

だからこそ互いを強く意識し、想いを高めた。
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