週末の薬指
そして薬指

週末には二人で

夏弥のマンションに着いた時、私の気持ちも体もくたくたで、玄関に脱いだヒールを揃える気力をようやく呼び起こした。

しゃがんでヒールを綺麗に揃えた瞬間、ふっと目の前が揺れて、膝をついてしまった。

足に力が入らないせいか、前のめりに体は崩れ、そのまま玄関で眠ってしまいそうなほど。

「ここで寝るなよ」

呆れた声が聞こえたかと思えば、私の体はふわっと浮いて、そのまま温かいものに包まれた。

「シャワーはいいのか?」

どうにか目を開けると、すぐ近くには夏弥の優しい顔。
私をお姫様抱っこしてくれた夏弥が、そのままリビングに向かって歩いていると気付いた。

「ご、ごめん、重いでしょ……おろしていいよ」

「眠ってる子供って抱くと重いけど、花緒もそんな感じだな。とりあえずスーツだけ脱いでこのまま寝るか?」

ん?と私の顔を覗き込む夏弥は、軽く私の唇にキスを落としてくれた。と同時に

「俺以外にも花緒の新しい家族ができて良かったな」

「え?家族……?」

家族っていう言葉は、小さな頃からおばあちゃんたった一人を指す言葉で、私にとっては『寂しい』と同義語。切ないって意味も含む。

だから、あまり聞きたくないし言いたくない。

今夏弥が口にした時も、眠りに引きずり込まれそうな意識の中で一瞬寂しかったけれど、それはほんの一瞬の事で、夏弥が今私を包んでくれる体温を私のものにできるって意味を含むって気づいて。

心の中が温かくなって、気持ちが緩んだのか。

「俺はもう、そのつもりだけど。……花緒?おい、はな……」

夏弥が呼びかける声が遠くに聞こえたかと思うと、そのまま意識は途切れて眠りに突入してしまった。

これまで生きてきて、こんなに幸せで、明日が楽しみな眠りは初めてだった。

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