ふたつの背中を抱きしめた

3.笑って欲しいと思った





その日は、暑い梅雨の晴れ間だった。



「また勝手なコトして!やめなさい!」

園庭に、矢口さんの怒り声が響く。

喚く矢口さんをチラリと不貞腐れた顔で見る柊くん。

その手には、勢いよく放水しているゴムホース。

そして、キャアキャアと嬉しそうにその水を浴びる子供達。


「あーあー、洋服のまんま水なんか浴びせちゃって、風邪ひいたらどうするの!?しかもこんな所でやるから足下泥だらけじゃない!」

ヒステリックな矢口さんの剣幕に、柊くんもしぶしぶ水を止める。

「暑いんだからいーじゃん。」

とブツブツ呟きながら。


「えーやめちゃうのー?」
「もっとやってー」

口々にねだるびしょ濡れの子供達を、他のボランティアさんと私でバスタオルで拭いてあげた。

「着替えた方がいいね。みんな、中に入ろう。」

私がそう言うと、ボランティアさん達がハーッと溜め息をついた。

「柊くんはまーた余計な仕事増やしてくれちゃって。」

「風邪でもひかせちゃったらどうするつもりなのかしら。」


相変わらず柊くんの評判はよろしくないようで。

「急いで着替えれば大丈夫ですよ!洗濯は私が休憩中にちょちょっとやっておきますから!」

ボランティアさん達の機嫌を損ねないよう、私は努めて明るく言って

「みんなー、着替えたらおやつにしよっか。冷たいジュースあるよー。」

そう子供達に呼び掛けながら園内に戻って行った。


< 42 / 324 >

この作品をシェア

pagetop