焼け木杭に火はつくか?

(7)

あと二時間ほどで、日付が変わりそうな時間。
良太郎は夏海が待つ『Waoto』に出向いた。
夏海には書き上げたばかりの小説をチェックしてもらうことになっている。
メールで送っても良かったのだが、英吾にそれを伝えたところ、時間と場所を指定され『夏海さんが行くから』と答えがあった。
東京の夜と違って、田舎町の団地の中は、この時刻になると外を歩く人も少ない。
遠くで鳴いている犬の鳴き声がやけに大きく聞こえ、歩道を歩く靴音さえ夜空に響き渡る、そんな静寂があった。
夕方まで雨が降っていたせいか、やや湿気を帯びた空気が肌に張り付いてくるような、そんな不快感を良太郎は覚えた。


そういや。
まだ梅雨だったな。


東京にいたころは忘れがちだった季節というものを、肌で感じられるようになったことが、良太郎には楽しかった。
雨上がりの空気の匂いを嗅ぎながら、足早に歩いていた良太郎は、やや汗ばみながら店内に入った。
ほどよく空調が効いている店内に、良太郎は安堵めいた息を吐いた。
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