ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
サード・トラップ
溶けてゆく…… 梓side
「今から行くのは、店に食材を納品してくれてる先輩のところ。信頼してるから基本任せっぱなしなんだけど、時々打ち合わせと称して顔出してるんだ」
「そうなんだ」
店の中のことだけが、遼さんの仕事じゃない。打ち合わせだって、立派な仕事だ。
と言うことは、私は車で待ってたほうがいいよね? 挨拶は帰る時にでも……。
ホっとした気持ちでシートに身体を預ける。しかしそんな甘い考えは、次の言葉で打ち消されてしまう。
「まずはそれに付き合って」
「えっ? 私も一緒にってことっ!?」
「当たり前。じゃなきゃ、何のために連れてきたのってことになるでしょ。先輩に梓のこと紹介したいし」
「紹介って、何て?」
「彼女ですって。あっ、恋人って言った方がいい?」
「どっちも却下で……」
「何で?」
何でって……。一ヶ月で終わりの彼女を紹介したって意味無いでしょ? あとでバレたらそれこそ恥ずかしすぎるし、言わなくたってそれくらい分かってよっ!!
頬をプーっと膨らませ怒った顔を見せると、つんつんっと突かれた。
「そんな可愛い顔してもダメ。梓をいろんな人に紹介したいんだ」
「か、可愛くないっ!! それに、おためしの彼女を紹介したって意味無いよ」
「意味は……ある」
握られている手に、力が込められる。
その意味はどんな? 聞きたくて、遼さんの横顔を見つめた。
「梓、分からない?」
そんな私にそう言って、ちらっと一瞬だけ視線を向けると、すぐに正面へと向き直ってしまった。