ビロードの口づけ 獣の森編

 (5)



 丸く大きな月が夕日と入れ替わるように顔を出した。
 高く上るにつれて明るさも増していく。

 やがて天頂に達した月は、あまねく世界を煌々と照らした。
 獣の森も青白い月の光に包まれる。

 そこかしこで獣の咆哮が聞こえる。
 興奮した男たちが雄叫びを上げているらしい。

 今宵は満月。
 獣たちの恋の季節、結月の始まりだ。

 恋といっても恋愛感情よりは、より優秀な子孫を残す事の方が優先される。

 獣たちに恋愛感情がないわけではないだろう。
 現にジンはクルミを愛していると言い、優秀な子孫を残すという本能に逆らってまで執着している。

 そういう感情がジン特有のものなのかはわからない。
 他の獣たちはどうなのか少し気になった。

 半開きのカーテンの隙間から、月光に照らされた森をクルミは飽きる事なくぼんやりと眺めていた。

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