魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】

南の島で

…眠れるわけがなかった。

自分とは反対にすやすやと眠っているラスに近寄りたかったが、真ん中にはまだ小さな小さなルゥが寝ている。

さすがに邪魔とは思わなかったが、ラスの寝息にさえときめいてしまう恋の病に陥ってしまっているコハクにしてみれば、やはりこの夜は拷問だった。


「朝だ…朝日が!夜が明けたぞ、さよなら禁欲生活!」


勢いよく起き上がったコハクは、ベッドの脇に並べてあった2つのキャリーバッグを見て頬を緩めた。

とんとおしゃれに興味のないラスが張り切って買った服。

ラスが自分に似合うだろうと思って買ってくれた自分用の服。

魔法を使えばキャリーバッグなど必要ないのに、旅行気分を味わいたくて仕方のないラスがわくわくしながら詰めたであろうキャリーバッグ。


「チビ、起きろよ。もう船の準備させてるからいつでも乗れるぜ。まだ寝たいなら置いて…」


「お、起きてるもんっ。眠たいけど…準備しなきゃ…。ルゥは寝ててもいいから起こさないでね」


目を擦りながら飛び起きたラスの着替えを手伝うべくにじり寄ったが、なんだか眩暈まで感じてしまって、苦笑。

短いながらも愛しい女に触れられなかっただけでこんな禁断症状に見舞われるのかと思うと余計に恥ずかしくなり、しかもラスが目の前で生着替えを始めたために、絶叫。


「わあーっ!」


「コー!?どうしたのっ?」


「し、刺激が強すぎるっ!俺先に降りてるから着替えたらすぐ来いよ。ルゥ、パパと先に降りてような」


荷物係にデスとグラースを任命して部屋を出たコハクの顔は明らかに真っ赤で、デスは首を傾げただけだったが、グラースはふっと鼻で笑うと、コハクをからかった。


「どうした、顔が赤いぞ。ラスに襲われでもしたか?」


「ちげーし。俺がチビを襲いそうで大変なの!しばらく留守にすっけど、なんかあったらデスを通じて連絡しろよ。俺の居場所位気配を辿ればわかるだろ?」


「……魔王の気配……魔力強いから……すぐわかる…」


「コー、準備できたよ。あっ、グラースとデスだ!おはよ、これからね、新婚旅行に行くの。お留守番頼んでもいい?」


ラスに腕に抱き着かれたグラースは、妹のように思っているラスの頭を撫でてコハクから舌打ちされると、さも自慢げにラスの肩を抱いて頬にキスをした。


「任せておけ。ほら、船が汽笛を鳴らしているぞ、早く行って来い」


「うん、行ってきまーす!」


そして3人の新婚旅行は、はじまった。
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