FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
Little girl - 幼女 -
クレドはキリエに不審に思ったことを、オブラートに包み質問した。
何故箸を使わなかったのか。
何故ドライヤーの使い方がわからなかったのか。
何故靴紐すらも結べないのか。
過敏になり過ぎているわけではない。
明らかに変だった。
上記の内容の1つだけならともかく、3つも当てはまったのだ。
17年間生きてきたならば、全てこなせるはずだ。
キリエはただただ驚いたように目を見開く。
「え……?わたし、おかしいの……?」
そしてクレドにされた質問に、自分のとった行動を咎められているように感じ、不安そうに眉を下げた。
「違うよ。そういう事じゃなくて……質問してるだけ。なんでなの?」
悪魔で優しく訊いてやるクレドだが、それでもキリエは不安そうな顔をしたまま一生懸命考える。
「……わ、わたし。引き取られてから、おはしも使ったことなくて……それから、ドライヤーもお手伝いさんがやってくれたし、靴紐も――」
そこまで言ってキリエは言葉を区切る。
なるほど、とクレドは2つ目まで理解する。
世界4大帝国のフランツ家の養女のキリエならば、想像できないわけじゃない。
箸を使うような料理が出で来なかった、メイドが身の周りの世話をした、そう考えれば、理解は出来る。
「……あ、」
すると、キリエは続きの言葉が出てこないのか目を見開いたまま固まってしまう。
「どうした?」
クレドが声を掛けても、彼女は何の反応も示さず、ただ呆然と口をパクパクとさせるだけだった。
「キリエ? 靴が、どうかした?」
再度彼が問い掛けてみると、その小さな体はビクリと縮込ませ、まるで何かに怯えたように顔を真っ青にした。
極端に顔の血色が悪くなっていく彼女を心配し、クレドはソファーに座る彼女に前にしゃがんだ。
下から覗き込むと、翡翠の瞳がみるみる内に涙で潤んでいく。
彼女が泣くような質問をしてしまった、それだけはわかったらが、何故泣くのかはわからなくて、クレドは困ったように微笑む。
「俺には言えない?」
寂しそうに微笑む幼馴染みを前に、キリエは慌てて首を横に振って否定する。
「ちが…う」
キリエは零れそうになる涙を堪えて、クレドを見詰める。
「……わたし、フランツ家に行ってから……外に出たことなかったの」
返ってきた内容に、クレドは僅かに顔を顰める。
自分自身、そんな王族生活なんて送ったこともないから彼等の常識なんてわからないけれど、それは普通なんだろうか。
何故?
そう訊いても大丈夫か、クレドは慎重に考えるが、キリエの反応からするとあまり深くは訊かない方が賢明な気がした。
「……そうか」
「それから、それから、わたし、ずっと、ずっとっあの部屋にっ」
キリエは小さく開いた口を震わせ、瞳をゆらゆらと揺らした。
焦点が合わない程同動揺する彼女を見て、クレドはその手を掴む。
「大丈夫だから。無理に言わなくて良いよ」
ぎゅっと力を込めるとキリエはハッとしたように目を見開いて、クレドを見詰めた。
「あ……」
「大丈夫。もう怖くないから」
勘の良いクレドはすぐに、彼女が何かに恐れるような出来事があったんだと悟る。
わざわざ王族の屋敷から逃げ出してくるくらいだ。
キリエでは耐えられそうにない事があったに違いないと、彼は僅かに顔を顰める。
「怖く、ない……?」
彼女は水面のように揺れる瞳を細めて、下唇を噛む。
「怖くないよ。俺が絶対に護るから」
そのために、彼は強くなった。
「護ってくれるの?」
「ああ。当たり前だろ。キリエは俺が護るよ」
キリエの前でしか見せない、彼の穏やかな微笑。
それを見た彼女はソファーから下りて、彼の膝の上に乗ると首の細い腕を回し、抱き付いた。
「もう……誰も、たすけてくれないって、思ってた……っ」
離れていた12年間、その長い時は確かに彼女にとてつもない孤独と恐怖を植え付けていて、これからの人生は絶望しかないんだと諦め掛けていた。
クレドにまた会えることができて本当に良かったと、キリエは心の中で感謝するしかできなかった。
その頼りない体を抱き返すと、更に強く抱きつかれるがクレドは優しく頭を撫でてやる。
「だいすき。クレド……だいすき」
涙声で告げられるその言葉に、クレドは小さく反応する。
それは、自分と同じ種類の"好き"だと思っても良いのだろうか。
「俺もだよ……キリエだけだから」
しかしキリエの想いを知る術など持ち合わせておらず、彼はそのまま確認しないで愛を囁く。
クレドが言う、愛の意味をキリエはわかっているのかすら、わからないが、今はこのままでと願う。
何故箸を使わなかったのか。
何故ドライヤーの使い方がわからなかったのか。
何故靴紐すらも結べないのか。
過敏になり過ぎているわけではない。
明らかに変だった。
上記の内容の1つだけならともかく、3つも当てはまったのだ。
17年間生きてきたならば、全てこなせるはずだ。
キリエはただただ驚いたように目を見開く。
「え……?わたし、おかしいの……?」
そしてクレドにされた質問に、自分のとった行動を咎められているように感じ、不安そうに眉を下げた。
「違うよ。そういう事じゃなくて……質問してるだけ。なんでなの?」
悪魔で優しく訊いてやるクレドだが、それでもキリエは不安そうな顔をしたまま一生懸命考える。
「……わ、わたし。引き取られてから、おはしも使ったことなくて……それから、ドライヤーもお手伝いさんがやってくれたし、靴紐も――」
そこまで言ってキリエは言葉を区切る。
なるほど、とクレドは2つ目まで理解する。
世界4大帝国のフランツ家の養女のキリエならば、想像できないわけじゃない。
箸を使うような料理が出で来なかった、メイドが身の周りの世話をした、そう考えれば、理解は出来る。
「……あ、」
すると、キリエは続きの言葉が出てこないのか目を見開いたまま固まってしまう。
「どうした?」
クレドが声を掛けても、彼女は何の反応も示さず、ただ呆然と口をパクパクとさせるだけだった。
「キリエ? 靴が、どうかした?」
再度彼が問い掛けてみると、その小さな体はビクリと縮込ませ、まるで何かに怯えたように顔を真っ青にした。
極端に顔の血色が悪くなっていく彼女を心配し、クレドはソファーに座る彼女に前にしゃがんだ。
下から覗き込むと、翡翠の瞳がみるみる内に涙で潤んでいく。
彼女が泣くような質問をしてしまった、それだけはわかったらが、何故泣くのかはわからなくて、クレドは困ったように微笑む。
「俺には言えない?」
寂しそうに微笑む幼馴染みを前に、キリエは慌てて首を横に振って否定する。
「ちが…う」
キリエは零れそうになる涙を堪えて、クレドを見詰める。
「……わたし、フランツ家に行ってから……外に出たことなかったの」
返ってきた内容に、クレドは僅かに顔を顰める。
自分自身、そんな王族生活なんて送ったこともないから彼等の常識なんてわからないけれど、それは普通なんだろうか。
何故?
そう訊いても大丈夫か、クレドは慎重に考えるが、キリエの反応からするとあまり深くは訊かない方が賢明な気がした。
「……そうか」
「それから、それから、わたし、ずっと、ずっとっあの部屋にっ」
キリエは小さく開いた口を震わせ、瞳をゆらゆらと揺らした。
焦点が合わない程同動揺する彼女を見て、クレドはその手を掴む。
「大丈夫だから。無理に言わなくて良いよ」
ぎゅっと力を込めるとキリエはハッとしたように目を見開いて、クレドを見詰めた。
「あ……」
「大丈夫。もう怖くないから」
勘の良いクレドはすぐに、彼女が何かに恐れるような出来事があったんだと悟る。
わざわざ王族の屋敷から逃げ出してくるくらいだ。
キリエでは耐えられそうにない事があったに違いないと、彼は僅かに顔を顰める。
「怖く、ない……?」
彼女は水面のように揺れる瞳を細めて、下唇を噛む。
「怖くないよ。俺が絶対に護るから」
そのために、彼は強くなった。
「護ってくれるの?」
「ああ。当たり前だろ。キリエは俺が護るよ」
キリエの前でしか見せない、彼の穏やかな微笑。
それを見た彼女はソファーから下りて、彼の膝の上に乗ると首の細い腕を回し、抱き付いた。
「もう……誰も、たすけてくれないって、思ってた……っ」
離れていた12年間、その長い時は確かに彼女にとてつもない孤独と恐怖を植え付けていて、これからの人生は絶望しかないんだと諦め掛けていた。
クレドにまた会えることができて本当に良かったと、キリエは心の中で感謝するしかできなかった。
その頼りない体を抱き返すと、更に強く抱きつかれるがクレドは優しく頭を撫でてやる。
「だいすき。クレド……だいすき」
涙声で告げられるその言葉に、クレドは小さく反応する。
それは、自分と同じ種類の"好き"だと思っても良いのだろうか。
「俺もだよ……キリエだけだから」
しかしキリエの想いを知る術など持ち合わせておらず、彼はそのまま確認しないで愛を囁く。
クレドが言う、愛の意味をキリエはわかっているのかすら、わからないが、今はこのままでと願う。