恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
1章:涙色の風

神様がいる島

石垣島離島ターミナルを出港したフェリーのデッキにあるベンチに座りながら、照り付ける陽射しに目を細める。


「……もう一発、殴っとけば良かったかなあ」


あたしは今朝、飛行機で生まれ育った東京を発った。


飛行機を乗り換えて沖縄本島から石垣島まで約1時間。


そして、今、東シナ海を行くフェリーに乗っているのだ。


行き先は、与那星島(よなほしじま)だ。


数ある離島の中でもいちばん小さなその島で、新しい生活が始まろうとしているらしい。


きっかけは、突然だった。










東京、新橋でサラリーマンをしていたお父さんが、ある日、突然、無職になって帰って来た。


「クビだ」


いわゆる、リストラだった。


それが原因で鬱状態に陥ってしまったお母さんに、お父さんが突拍子もない提案を持ち出したのは、まだ桜が満開の季節だった。


「沖縄へ行かないか」


これからが大変なのに旅行だなんて何考えているのよ、とお母さんは泣きだすし。


だけど、旅行じゃなかった。


「家族で、沖縄へ移住しよう」


突然、何を言い出すのかと笑うしかなかった。


リストラされたショックで頭がおかしくなったんじゃないか、って。


もちろん、本気なわけないと思っていたし、数日後には笑い話になってるに違いない。


そう思っていた。


だから、これっぽっちも本気にしていなかった。
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