スーツを着た悪魔【完結】

天使を抱いて


深青はまゆのためになら何でもしたいと思っていたし、彼女が笑顔になってくれるのなら、全てをなげうってもいいと思っていた。


だから、初めて行く二人の旅行は(あの京都出張だって、まゆは知らなかっただけで半分は旅行のようなものなのだけれど)とびきり豪華にしたいと思っていた。


南の島のコテージでゆっくり過ごしてもいいし、ヨーロッパの重厚なホテルを泊まり歩き、贅の限りを尽くしてもいい。

オーロラを見に、アラスカにだって飛べる。


なのにまゆは――

国内の、豪徳寺家が伊豆に所有している別荘を選んだ。


なにしろ深青ですらこの別荘の存在を忘れていたくらいだ。

せめて、別荘で過ごすよりも、近くのホテルに泊まったほうがまゆをゆっくりさせてあげられると思ったのだが、まゆは「ここがいい」と譲らなかった。



二人が到着したのはもう日が落ちる時間だった。

この前日に未散があの豪徳寺邸に泊まりにやってきて、なかなか出発させてくれなかったのだ。



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