冷たいアナタの愛し方

憎悪と復讐

ジェラールはウェルシュに暗殺されたかもしれない――

腸が煮えくり返りそうな思いで、王となるはずだった弟を捜し回った。

建物はいくつか半壊したり物が散乱していたりしていたが、思っていたよりも暴力的なことは起きなかったのかもしれない。

広場に集められた住人たちも女子供は中心に集められ、男たちが守るようにして取り囲みながら無能のウェルシュの演説を聞いていた。

彼らはこれからどうすればいいか知っているのだ。

――ここには数時間のうちに援軍がやって来る。


「各諸国に通達もなくローレンを攻めるとどうなるか…ウェルシュはこれから思い知るだろう」


東のハルヴァニアと西のエンダーランドは、ローレンとは親密な国交がある。

特に東のハルヴァニアはガレリアに次ぐ軍事国家だったが、いつかガレリアを食わんと貿易に力を入れ、密かに大量の武器を輸入しているという。

ガレリアが何かミスを侵せばすぐに食らいついてくる――今が、その時だ。


「ウェルシュ様にご報告を!東から大軍が…!」


街のあちこちを馬で駆けていると、入り口を見張っていた衛兵が緊迫した声を上げた。

馬を翻して遠くに目を遣ったルーサーは、遥か遠方に真横に広がる真っ黒な大軍を見た。


「これでいい…。これでウェルシュはガレリアに引かざるを得なくなる。後はハルヴァニアに任せればいい」


ハルヴァニアがやって来る前に自分も退却しなければならない。

結局王たちもジェラールも見つけることができず、ローレンは街を出て全速力で蛮族の巣に向かった。


「ど、どうなってるんだ!覇王剣を持つ者はどこに行った!?」


「ウェ、ウェルシュ様…情報は間違いだったのでは…!」


「馬鹿な!見張りからの報告が偽りだったと!?」


教会のバルコニーでハルヴァニア軍がやって来たという報告を受けたウェルシュは、鼻の頭に汗をかいて唾をまき散らしながら怒鳴った。


「覇王剣は創世記に出てくる伝説の剣です。実際に存在するとはとても思えません!」


「く…っ!一時撤退だ!撤退するぞ!」


金の髪と青い瞳は兄弟同じだが、ウェルシュは最も平凡な顔つきで、体型は丸々としたメロンのようだった。

特に見目も良く全てに秀でたジェラールを目の敵にして今まで生きてきたのだ。


「ジェラールは殺せた。後はガレリアに戻って即位するだけだ…!」


願いが成就する時だと信じ切って、階段を転がるようにして駆け降りた。
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